works
大山阿夫利神社下社 改修工事works
project data
所在地:神奈川県伊勢原市大山
竣工:2025.05
用途:神社、社殿
延床面積:328㎡(改修面積)
写真:礒健介
施工:内田工務店
構造協力:下山建築設計室工事種別:改修
構造種別:木造2階建て
※堀部安嗣建築設計事務所との共同設計
今までとこれからを繋ぐ
古来「雨降山」として信仰を集めてきた大山阿夫利神社は、豊かな水をもたらす山として人々の暮らしと祈りを支えてきました。参道には、四季折々の自然とともに、数多の参拝者が刻んできた祈りの記憶が幾重にも重ねられています。その積層した記憶を現代に受け継ぎ、未来へとつなぐことを目指して、今回の改修に取り組みました。
改修の中心は客殿と授与所です。新しい客殿は祈祷待合や会合、石尊の客席など多様な用途を担いながらも、過剰な装飾を避け、簡素で清らか雰囲気の空間としました。祈りの場に入る直前に心を整えるための「間」をつくり出すことを意図しています。既存の天井は約200本の檜ルーバーで覆い、木の香りと柔らかな陰影に包まれた内省的な空間が生まれました。床下には断熱材を敷設し、広縁のアルミサッシには猫間障子を組み込んだガラス建具を設け、二重窓としています。さらに空調を新設し、四季を通じて快適に過ごせる環境を整えました。伝統的な趣を損なうことなく現代的な性能を加えることで、日常の利用から特別な儀式まで幅広く対応できる空間としています。
授与所は従来の窓越しの形式を改め、完全に内部化しました。参拝者や登山客が落ち着いて滞在できる場所となるよう更新し、祈祷受付を隣接させることで、受付から祈祷までを円滑につなぐ動線を確保しています。ここでも断熱改修と空調を行い、利便性と執務環境の向上を図りました。授与所から客殿へと至る空間の連なりは、静かな抑揚を生み、人々の心を自然と澄ませる道程となることを意図しています。
仕上げ材には檜を多く用いました。特に幅30mmの小幅板を規則正しく張り巡らせることで、細やかな目地の連続がこの地に降り注ぐ雨の律動を映し出しています。水は岩肌を伝い、森を潤し、大地に沁み入り、やがて人々の暮らしを育んできました。その循環する水の気配は、訪れる人々の祈りと共鳴し、建築を通して新たな記憶として積み重なっていきます。
大山阿夫利神社は、山や自然を崇拝してきた神社です。そのため建築は決して主役ではなく、信仰や祈り、人々の行為に寄り添い、それらを支える背景であるべきだと考えています。本改修では、そうした思想を根幹に据え、自然と祈りが静かに響き合う場を築くことを目指しました。檜の香りや光の陰影、清々しい空気の重なりの中で、人々の祈りが未来へと紡がれていくことを願っています。